関税と貿易の歴史
代表取締役 河内信幸
§関税とは?§
関税とは物品の輸出入に際して課せられる税金のことであり、関税は、歴史的には古代都市国家の手数料に始まり、内国関税、国境関税というような種類の変遷を経てきました。関税は、他の租税同様、その収入は国庫収入となり、財政赤字が続く日本にとって重要な財源となります(財務省「わが国の関税制度の概要」)。
関税には輸入に際して輸入国が課す「輸入関税」と、輸出時に輸出国が課す「輸出関税」の2種類がありますが、日本では輸出関税制度はとられていません。「輸入関税」は日本国内の産業を守るためであり、関税をかけることにより、国産品と輸入品の価格差を縮め、国産品が売れなくなることを防いでいます。関税が撤廃されると、国内産業や食料自給率が低下する可能性があり、ひいては輸入品と競合する国内産業が衰退する恐れもあります。たとえば、海外市価の60%に対して15%の関税率が適用されるとすると、50万円の商品を購入した場合、50万円×0.6=30万円が課税対象額となります。そして、30万円×0.15=4万5000円の税金が発生します。
§関税のデメリット§
貿易において重要な政策の一つである関税制度は、輸出国との間に貿易摩擦を引き起こすことがあります。関税によって輸入品の価格が上昇するため、輸出国との間に激しい摩擦が起こるからです。その結果、貿易が停滞して経済に悪影響を及ぼすことにもなりかねません。
しかも、関税によって国内産業が保護されることで、国際競争力が低下する場合があります。国内産業が保護されすぎると、輸入品に対して価格差が大きくなり、国際競争力が低下するため、国内産業の生産性やコストが改善されにくくなります。自由貿易協定(Free Trade Agreement:FTA)のように、これらのデメリットを回避するため、限られた国同士の間で関税を撤廃したり、削減したりする仕組みもあります。
§自由貿易の促進§
自由貿易は、政府の関税や数量制限などの介入を排して行われる貿易のことであり、経済学では、まったく逆の保護貿易よりも経済発展に役立つと一般的に評価されています。自由貿易によって輸出入市場が拡大し、より効率的な産業構造への転換を図ることにより、企業の国際競争力が改善されるとともに、経済的な相互依存を深めることで相手との政治的な信頼関係も生まれるからです。
自由貿易は、重商主義にもとづく保護貿易に対して、イギリスのアダム・スミスやデヴィッド・リカードらによって唱えられて来ました。その後、第一次世界大戦までの自由貿易はイギリスが主導しましたが、第二次世界大戦後はアメリカがリードし、通貨制度はアメリカのドルとの比率にもとづくブレトンウッズ体制で確立しました。
1948年には「関税および貿易に関する一般協定」(General Agreement on Tariffs and Trade:GATT)も発効し、広く国際貿易の自由化が図られました。そして、1994年にはGATTウルグアイ・ラウンド交渉が妥結し、1995年に世界貿易機関(World Trade Organization:WTO)が発足して現在に至っています。アメリカのトランプ大統領は、2025年1月の就任後、公約に掲げていた関税政策を次々と実行に移していますが、その行方には国際貿易に対する不安感も広がっています。
(2025年2月)